行動経済学は、「人間らしい思考プロセス(非合理的なもの)」を学ぶ学問です。
私たちの意思決定プロセスに大きな影響を与える重要な概念に、「速い思考」と「遅い思考」があります。
- 速い思考(システム1):直感的で瞬間的な反応。日常的な細かな問題をすばやく解決するときに使う。
- 遅い思考(システム2):論理的で熟考された判断を行う。重要かつ難しい問題を解くときに使う。
本記事では、これらの思考の違いと、それがどのように日常生活やビジネスに影響を与えるかを解説します。
1. 速い思考(システム1)と遅い思考(システム2) ダニエル・カーネマン
私たちは、2つの思考を使いわけています。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、著書「ファスト&スロー」で2つの思考を使いわけ紹介しています。
速い思考(システム1) | 遅い思考(システム2) | |
---|---|---|
特徴 | すばやく判断することを担当。 感覚的な判断や、瞬間的な判断を行う際に活大活躍。 | 論理的に考えて、正確な答えを出すことを担当。 |
使用例 | 飛んできたボールをよける 時間のない時に小さな買い物をする 単純な算数の計算 など | 熟考のうえ、論文を書く。 いろいろ比較して、おおきな買い物をする。 数学の問題を、じっくり考えて答えす。 |
意識 | 無意識 | 意識的 |
長所/短所 | 長所:すばやく判断できる。 短所:誤りやすく、バイアス(先入観や 偏見)がかかりやすい。 | 長所:正解率が高い! 短所:時間がかかる。疲れやすい。 |
エネルギー | 消費 小 | 消費 大 |
行動経済学では、速い思考(システム1)の短所に焦点をあてます。
速い思考(システム1)の短所を、購買者は巧みに突いてきます!
2. システム1は、狙われている! さまざまなバイアス
人は以下の場合、速い思考(システム1)を使いがちになります。
- 疲れているとき
- 情報量・選択肢が多いとき
- 時間がないとき
- モチベーションが低いとき
- 情報が簡単で見慣れすぎているとき
- 気力・意思の力がないとき
誤りやすいシステム1の欠点を狙って、世の中のさまざまな所に利用されています。
具体的にどのようなものがあるのか、紹介します。
買うつもりないのに、いつのまにかポチってました。 「自制バイアス」
「自制バイアス」とは、「私は誘惑に負けない。衝動的な行動を抑えることができる。」と過信したり、過大評価をしてしまう心理傾向のことです。
ダイエット (システム1 vs 誘惑)
例として真っ先に挙げられるのが、ダイエットです。
ダイエット中の夜、仕事帰りに疲れて空腹の状態でコンビニにたまたま立ち寄ったとします。(システム1稼働中)
「ただ、サラダを買うだけ」と思っていても(自制バイアス)、商品を見てしまうとつい、ビールやジュース、からあげ、スイーツ、ポテチなどを、ついつい買ってしまってる。(システム1で判断)
購買者側は、このような私たちの行動を見越して、広告や陳列、クーポン等で誘惑を仕掛けてます。
ネットショッピング (システム1 vs 誘惑 その2)
「ショッピングサイトを見るだけ」と思っていても(自制バイアス)、いろんな商品を見ていると「ついポチってしまう」。「今回だけ」「この商品だけ」と結局購買衝動に駆られ、買いすぎてしまう。 スマホ、タブレットでの閲覧は、(直接指で接触しているため)この傾向が強いです。(システム1で判断)
自制を過信して、結局欲求に負けてしまうことが多い典型例。
「自制バイアス」の対策
以上のように、「私たちは、誘惑に弱い」です。まず、これを認識してください。
それで、誘惑に負けないように頑張るのではなく、そのような仕組み作りをしてください。
例えば、買いたいモノがなければ、店に行かない。 君子危きに近寄らず です。
疲れている自覚があり(システム2起動!)買いたいモノがあるときは、それを手に取って他を見ずに何も考えずレジにに向かってください!(システム2で判断)
ちなみに、わたしは家にビールの買い置きはありますが、冷やしていません。飲みたかったら、2時間待つ必要があります。待ってる間に、冷やしていること忘れます。 家のすぐ近くにローソンがあるので、これが一番効果あります。
買いに行けばすぐ飲めますが、買い置きがあるので買いたくないんです(笑
数字による暗示 「アンカリング効果」
アンカリング効果とは、はじめに提示された情報を基準点(アンカー)とし、ほかの情報を評価・判断する現象です。
よくある例は、これでしょう!
見ない日は無いくらいです。
値引き前の表示が基準点となり、安く感じてしまう現象です。
値段のわかりにくいもの(高級ブランド品、コンサルティング料金など)程、効果があると言われています。
あなたにとって、現在の値段でその価値があるかで
考えてみましょう。
「50%OFF」 や 「半額」は、システム1を狙ってきています。
とっておきは、「無料」のキーワードで誘ってきます。
わかったつもり 「ハロー効果」
ハロー効果とは、ある対象を評価するとき、その一部の特徴的な印象に引きずられて、全体の評価をしてしまう効果のことです。
あの人は、「有名大学卒業」だから、きっと仕事もできそう、きっとすごい、などと感じたことないですか?
「あの人は、仕事もできて、社交的で、おしゃれで、・・・」ほんとうにそうでしょうか? (笑
またこの逆も然りで、出世レースから外れた人を「あの人はやる気もないし、性格も暗いし、ファッションも今イチだし・・・」とか思ってませんか?
もし直感で判断しているなら、システム1のハロー効果である可能性が高いです。
もう一度、具体的な行動や、事実で見直してみてはどうでしょう?
製品やサービスを開発する場合
その製品やサービスに、わかりやすい長所を1つ与えること。
明確なウリを持たせることによって、そのウリがハロー効果となり他の部分も前向き・肯定的にとらえてくれる可能性が上がります。
イケメンだからって、優しいとは限りません。。 と思いたい。
3. システム1が使われやすい時間帯
2で紹介した自制バイアスに関する体験例ですが、私はたまに、こんなことやってしまってます。
朝の通勤時 : コンビニに立ち寄っても、毎日お茶のペットボトルしか買いません。
夜の帰宅時 : もともと甘いものもお酒も好きな私は、気が付いたらたくさん買いすぎています。
例)レモンチューハイ、エクレア、シュークリーム、ポテチ ・・・等々
※「これから帰宅するから」というのもありますが、夜は「システム2」が疲れ切っています。
なので、システム1が使われる誘惑によわい時間帯なのです。
朝は、システム2が元気な時間帯ですので、思考を使う仕事が向いていると言われています。 (難しい問題検討など)
夜は、システム2が疲れていますので、思考を使わない作業が向いていると言われています。 (暗記や単純作業など)
4. くわしく学べる行動経済学のおすすめ本
今回は、ダニエル・カーネマンの著書を紹介します。
「ファスト&スロー 上」 ダニエル・カーネマン著 評価:★★★★
このページで紹介している、システム1(速い思考)は直感的で自動的、システム2(遅い思考)は論理的で慎重なプロセスについて書かれています。
これら二つの思考様式がどのように意思決定や判断に影響を及ぼし、認知バイアスを引き起こすかを明らかにしています。
また、これらのバイアスが日常生活やビジネスの場面でどのように非合理的な判断をもたらすかを示し、その誤りを避けるための方法を提案しています。
「ファスト&スロー 下」 ダニエル・カーネマン著 評価:★★★★
『ファスト&スロー』の下巻では、特に人間の意思決定や判断に関する詳細な研究とその応用について焦点を当てています。カーネマンは、リスクの認知や選好、幸福感、意思決定の矛盾に関する実験結果を提示し、これらがいかに日常生活やビジネスに影響を与えるかを説明します。
プロスペクト理論を通じて、なぜ人々がリスクを避けるか、または過剰にリスクを取るかを分析します。さらに、幸福感と意思決定の関係についても探り、瞬間的な幸福(経験の自己)と全体的な満足感(記憶の自己)の違いを明らかにします。
5. まとめ
ここではダニエル・カーネマンが紹介した、人間の思考「速い思考(システム1)」と「遅い思考(システム2)」について述べてきました。速い思考が生み出すバイアスについては、今回紹介したものはごく一部でもっとたくさんあります。ぜひもっと学習して、日常生活やビジネスで非合理的な判断を避ける方法に役立ててください。