行動経済学やナッジ理論をビジネスにどう活用したらいいか、とお悩みではありませんか?
ナッジ理論を実際のマーケティングや営業に取り入れる具体的な方法が分かりにくいと感じている方も多いでしょう。
この記事では、行動経済学とナッジ理論をビジネスで効果的に活用する方法を詳しくご紹介します。
読んでいただければ、ナッジを使って顧客や従業員の行動を自然に導くためのヒントが得られることでしょう。
この記事では、以下のことを解説しています。
- 自由に選択しつつも最適な行動を促す、ナッジ理論とは?
- ナッジ使用で検診を3.7%アップさせた成功事例
- ビジネスやプロジェクトを成功に導く、ナッジ理論の活用事例
それでは、ナッジ理論について詳しく見ていきましょう!
1. ナッジ理論とは?行動経済学を応用した方法論
まず、ナッジ理論の基本的な知識について簡単に説明します。
ナッジ理論は、行動経済学の応用であり、人々の選択をそっと後押しする技法です。
たとえば、コンビニやスーパーのレジ前で、床に描かれた足跡マークを目にすることがあります。私達は、おのずとマークに沿って並び、お店の人に誘導されなくても整然と並ぶことができます。
ナッジは、強制することなく良い方向へ誘導することができる実用性が高い理論で、身の回りのさまざまな場所に取り入れられています。
ナッジ理論は行動経済学の枠組みから派生し、リチャード・セイラーとキャス・サンスティーンによって提唱されました。
2017年に、セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで、同教授の研究領域である行動経済学およびナッジ理論への注目度がさらに増大しています。
2. ナッジの心理的なメカニズム
ここでは代表的なナッジの心理的なメカニズムを、具体例とともに6つご紹介します。
- ヒューリスティック
- 社会的証明
- フレーミング効果
- デフォルトオプション
- アンカリング効果
- 損失回避バイアスの活用
2.1 ヒューリスティック
人々は複雑な情報を簡単に処理するため、シンプルなルールに基づいて意思決定します。
例として、コンビニで「新商品」のラベルが付いた商品を特別に感じ、購入しやすくなることがあります。
2.2 社会的証明
簡単に言うと、大勢の人の判断は正しいと感じてしまう原理です。
なので人は、他者がどのように行動しているかを参考にする傾向があります。たとえば、「多くの人がこの商品を選んでいます」と表示することで、消費者が同じ商品を選びやすくなります。
皆さんも、なんとなく「売れていると聞いて買ってしまった」といった経験はあるのでは?
2.3 フレーミング効果
同じ内容でも表現の仕方で人々の選択が変わる現象です。
例えば、「90%の人が成功する」と「10%が失敗する」という2つの表現では、前者の方がポジティブに感じられ、選ばれやすくなります。 言ってることは同じ内容でも、どう言うかで印象が変わってきます。
医者が患者に手術の成功率を伝えるのに、このやり方でポジティブに言うと聞いたことがあります。
2.4 デフォルトオプション
あらかじめ設定された選択肢をそのまま選びやすい心理を利用します。
例: 退職金制度で自動加入をデフォルトに設定することで、加入率が大幅に上がる。
オーストリア、ハンガリー、フランスなどは、この効果を使用することで、臓器提供の意思率を98%以上に増やしました。
(「臓器移植をする意思がない人は、チェックを外してください」という、「オプトアウト方式」を採用)
2.5 アンカリング効果
最初に提示された情報がその後の判断に大きく影響する現象です。
例: 商品の価格を割引前の高い価格と比較して表示することで、割引後の価格がよりお得に見え、購買意欲を高める。
街の売り場で、よく目にしますね。
2.6 損失回避バイアスの活用
人は利益を得ることよりも、損失を避けることに強い反応を示します。
例: 「この割引はあと1日で終了します」というメッセージを使って、購入を急がせる。消費者は「損をしたくない」という気持ちから購入を決断しやすくなります。
このようにナッジ理論は、企業や公共政策でそれぞれの目的達成のために、多く活用されています。
3. ナッジ理論のビジネス応用
ナッジ理論はビジネスの多くの分野で応用されています。特にマーケティングや営業、人事の場面での効果的な活用法は、企業の成功に大きく貢献しています。
3.1 ビジネスでナッジ理論を活かす方法
マーケティングでは、ナッジを用いて消費者の購買行動を自然に促進できます。例えば、食品のパッケージに「期間限定」や「人気商品」というラベルを付けるだけで、その商品が売れやすくなります。
また、営業では、顧客に複数のプランを提示する際、最初におすすめのプランをデフォルトとして提示することで、選ばれる可能性が高まります。人事の分野でも、従業員に健康診断の受診を促す際に、社会的証明を用いる(例:90%以上の方が受診しています)ことで、受診率を上げることが可能です。
3.2 ナッジを活用した成功事例【国内・海外】
ここでは、実際にナッジを利用して成功した事例を、国内と海外で見ていきましょう。
3.2.1 国内のナッジ事例
日本国内でもナッジを活用した成功事例は多数あります。たとえば、家庭の省エネ家電製品の買い替え促進です。また、がん検診の受診率向上策として、ナッジを利用することで、受診者数が増加した事例もあります。
具体的な事例が、経済産業省の「省エネ関連ナッジプロジェクト」です。この実験では、省エネ製品への買い替えの効果的な情報発信実験でナッジを採用し、一定の効果が確認されています。
(蛍光灯からLEDへの買い替え)
【参考】話題の「ナッジ手法」も検証!省エネの輪を広げるための情報発信
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/shoene_nudge.html
以下の事例は、地方自治体の検診受診率の改善の具体例です。
・「どれにする?」から「いつにする?」
特定健診とがん検診の問いかけを特定健診とがん検診セットのように見せ、希望日を囲む簡単な方式にした。
福井県高浜町がん検診セット受診率改善 +17ptsUP
・「どこで受けるか」に焦点を絞る(別件の例)
受診する人が固定化し新しく受診する人が増えない傾向であったため、案内の最初のステップ「どこで受けるか」を決めてもらうことを焦点にした。
千葉県千葉市 特定健診受診率の改善 +3.7%UP
3.2.2 海外のナッジ事例
ナッジ理論は海外でもさまざまな成功事例があります。以下に代表的な事例を示します。
- Googleの社員食堂の事例
健康的な食品を目立つ場所に配置することで、社員が自然と健康的な選択をするよう促した。 - 英国政府の納税率向上事例
納税通知書に「ほとんどの人が期限内に納税しています」というメッセージを追加し、納税率を大幅に向上させた。 - 公共トイレの「ハエ」効果
オランダのスキポール空港で、男性用小便器にハエの絵を描くことで狙いを集中させ、清掃コストを削減した。 - 食品配置の工夫
スーパーマーケットで健康的な食品を目立つ場所に置き、不健康な食品を下の棚に配置することで、健康食品の売上を増加させた。 - 階段利用の促進事例 (動画)
スウェーデンの首都、ストックホルムの事例です。
ピアノ階段を設置することで、階段の利用率を66%UPさせることに成功しています。
4. ナッジの倫理的な側面と限界や注意点
ナッジには多くのメリットがありますが、適切に使用しないと倫理的な問題や限界に直面することがあります。顧客側の自由を守りつつ、効果的な施策を行うことが求められます。
4.1 ナッジ理論の倫理的課題
ナッジは選択肢をそっと導く手法ですが、過度に影響を与えることで、個人の選択の自由を制限してしまう恐れがあります。特にデフォルト設定によるナッジは、そのまま選ばれることが多いため、選択のうそやごまかしがないこと、また公平であることを確保することが重要です。企業や政府がこの手法を用いる際には、うそやごまかしではなく、利用者にその意図をしっかりと伝えることが大切です。
4.2 ナッジ理論の限界
ナッジ理論は万能ではありません。たとえば、感情が強く関わる選択肢では、ナッジが効果を発揮しない場合があります。また、ナッジが逆効果となるケースも存在します。
たとえば、大衆にある行動をやめてもらおうとするとき、その行動をとっている人が「増えてます」や「多いです」と警告することは逆効果になります。「ポイ捨てをする人が多いです」「不法投棄が多発しています」「予約時間に遅れる人が増えています」などです。
そのような警告は人々がその行為が悪いことでなく、多くの人が頻繁に行っていることに意識が向けられてしまいます。
4.3 ナッジ施策の実行時に注意すべきポイント
ナッジを実施する際には、選択の自由を尊重しつつ、利用者が適切に選択できる環境を整えることが重要です。デフォルト設定では、選択肢が本当に最適かを検討し、エラーが発生しにくい環境を構築することが求められます。例えば、ほとんどクリックしないで購入できるなどで購買プロセスを簡単にし、しかも選択肢は明確に表示するなどで、ユーザーはストレスなく選択できます。
4.4 ナッジ施策がもたらすデメリット
ナッジは効果的な手法ですが、過度に用いると消費者に疑念を抱かせるリスクもあります。
例えば、利用者が気になるようなフレーミング効果は、利用者に操作されている感覚を与え、逆に信頼を損なう可能性があります。ナッジを用いる際には、慎重に設計する必要があります。
5. 最新のナッジ理論の研究動向
ナッジ理論は日々進化しており、最新技術と組み合わせることで、その効果がさらに高まることが期待されています。
具体的には、AIやビックデータとの融合が注目されています。
AIやビッグデータの活用により、個々の消費者の行動に応じたパーソナライズされたナッジの提供が可能になっています。例えば、コンビニのレジでAIが顧客の過去の購買データを分析し、おすすめの商品を提示することで、消費者はより簡単に購買行動を取ることができます。また、データ分析に基づいて、ナッジの効果をリアルタイムで測定し、施策の改善に役立てることができます。
6.ナッジを学ぶ!おすすめ本
「NUDGE 実践 行動経済学 完全版」 リチャード・セイラー , キャス・サンスティーン他 著 評価:★★★★
このページで紹介した「NUDGE(ナッジ)」について、いろいろな実験結果を基に紹介している名著。
「うっかりしていた」「知らなかった」「じっくり考える時間がなかった」……
実はその「損」、ナッジの活用で防げます!
・ジム、動画、音楽、雑誌……サブスクの「解約し忘れ」はなぜ起こる?
・保険料を得して医療費を安く抑える保険の選び方
・老後の年金を結果的に「一番多く」する方法
・事故多発の道路を安全に変えた「ある工夫」・地球温暖化防止、ドナー登録……
7. まとめ:ナッジ理論の未来と応用の可能性
ナッジ理論は、ビジネスや社会の多くの課題解決に寄与できる可能性を秘めています。特に、AIやビッグデータを活用することで、消費者や従業員の行動をより効果的に導くことが可能になります。これからのマーケティングや経営戦略において、ナッジ理論を活用することで、持続可能なビジネス成長を達成することが期待されています。